ラケットの性能を司るのは、一にチューンナップ、二に張りです。
チューンナップの良く出来ていないラケットに、いくら良い張りを加えても良いラケットにはなりません。
チューンナップを知らなかった時代、張りだけを論じていた自分は、井の中の蛙でした。
なので、ついチューンナップの記事ばかり書いてしまいます。
久しぶりに、張りについて語っておきましょう。
なぜなら反対意見をお持ちの方には、別の選択肢をご検討頂く必要があるからです。
●1本張り
トゥルーテンションで張っていた頃、私は1本張り全否定論者でした。
1本張り信者のことを、単にストリングを浮かせたいコストカット論者と断じておりました。
しかし今では1本張りを信奉しています。
その優位性を列挙することは控えます。
誰かと議論はしたくありませんので。
両者の短所について一点だけ触れておきます。
一般的な1本張りは、一方の端の縦糸が他方の端の縦糸より緩みやすい短所があります。
当店の1本張りは、反対に両端共に張力がしっかり出ます。
ノットで緩んだときの平準化を見越しているため、左右に張りたては小差があります。
2本張りでも縦糸両端の差は出ます。
手で突っ込んで手で引っ張って結んでいるのですから。
ノットがすぐそこのため、ノットの緩みが両端の縦糸の緩みに反映しやすいです。
●ポンド数と面圧(張りの硬さ)の関係
ポンド数と面圧は赤の他人です。
親しい友人ではありますが。
まず、ポンド数は張力ではありません。
張力=引張応力=荷重値/面積 荷重値=ポンド数
引張応力が多数集まって、面圧を形成します。
その張力はマシンの性能と張り方で、各糸で大差が生じます。
そもそも縦糸の中央二本くらいにしかポンド数丸々の荷重は掛かりません。
グロメットは滑車じゃないので、サイドに行くほど摩擦抵抗でどんどん荷重は減ります。
ターンテーブルがオートロック付マシンではロックされた際に斜め荷重だと0.5ポンド位は減ります。
グロメットが滑車の役割を演じる箇所は垂直荷重ですが。
次に、支柱やクランプの倒れと復元, サイドフィクサーの広がりと復元, クランプでの滑りで荷重は変わります。
更に張力変動の大きな要因が応力緩和です。
糸はスパンが決まった瞬間から、クリープ変形によって応力緩和していきます。
電車の架線のように常に荷重を掛けているのではないのですから。
そして張り上がりの変形は最も張力を変動させる要因です。
原形を損ねた張りは、全ての糸の張力を絶大に変えてしまいます。
ポンド数なんて、グロメットまでの糸の10cmか20cmの部分に一瞬に掛かった荷重値に過ぎません。
ポンド数から面圧を類推することはできます。
しかしそれはパーソナルな結果論です。
●ポンド数と面圧(張りの硬さ)の相対関係
次のようなポンド数と面圧(張りの硬さ)の相対関係は確立すべきです。
・45ポンドで2本張れば同じ硬さ。
・45ポンドより46ポンドは硬い。
しかしその相対関係を気温が崩します。
ストリングは夏は軟化して冬は硬化します。
更に体感的にこれらで張力の違いを感じます。
ボールのゴムも夏は軟化して冬は硬化します。
ボールの空気圧も夏は上がり冬は下がります。
身体も夏はよく動き冬は動きにくくなります。
当店はポンド数の指定の無いお客様にはその補正を加えます。
ポンド数を指定される場合は、お客様ご自身で季節性の補正を加えてください。
当店はテンションロスが少ないので、他店より硬めに仕上がります。
テンションをご指定の際はご注意ください。
ただし、張りにこだわりのあるお客様から反対の評価を頂戴したことがあります。
「貴店の51ポンドの面圧は他店で40ポンドで張ったより低い」と。
大勢とは異なる評価に驚きでしたが、反対にホッとしました。
当店が決して硬すぎる店ではなく中道にいるのだと認識させて頂けたので。
その他、相対関係を崩す犯人と絶対関係をつくらない犯人は同一犯です。
支柱やクランプの倒れと復元, サイドフィクサーの広がりと復元, クランプでの滑り。そして変形。
●張上がりの形の変形
大半の店で変形して張り上げられています。
変形させられたラケットは折れやすいです。
数mmの変形でも、人間一人乗っかっているのと同じ負荷ですから。
当店は変形の99.6%を排除します。
一部の機種は1mmの変形を排除すると打感を損ねるため許容しますが、他は1mmの変形も排除します。
ただし同じ機種でも、スウィングウェイトの低いラケットや一度でも変形させて張られたラケットやヘタリを生じたラケットはその限りではありません。
●ストリングの滑らせ痕とねじれ
滑らせ痕やねじれは排除できます。
100%の排除を目指すと、張りの所要時間の大幅増を招きます。
それは待ち日数の長期化と時給を費やして高張り代化に直結します。
張りには、早さ, 安さも大切な要素です。
当店は三要素を高次元でバランスを取ってベストに近いベターを目指します。
当店は実用性を完全に担保した範囲で、軽微なものは許容しております。
なお、ナチュラルガットは、「美」の追求は性能と直結します。
なので当店は、割増料金を申し受けて時間を掛けて丁寧に張り上げます。
●はさみ痕
チャックやクランプでストリングの表面にザラザラした凹みが生じます。
この挟み痕を100%排除すると、滑って緩みと変形を招きます。
当店は、挟み痕は、実用強度を担保した範囲で許容しております。
というより、適度なはさみ痕は『正確な張りの勲章』だと考えています。
●共振
素材同士の固有振動数がたまたま一致した際に共振が起こります。
ブランコが大きく揺れる原理は‥
本体の揺れと膝の曲げ伸ばしや脛の蹴りの周期がうまく合わさった結果です。
ストリングは無負荷では同一固有振動数を有します。
しかし引張応力とスパンで固有振動数が変わります。
なので、縦糸と横糸の固有振動数の組み合わせは無数となります。
フレームは重量によって固有振動数が変わります。
固有振動数の異なる素材(レッドテープなど)を貼られたフレームは共振が減少します。
従ってレッドテープの量が違うと共振の発生も変わります。
エンドの蓋の建て付けは、共振を起こしやすい元凶です。
時々両面テープを貼り替えてください。
ヨネックスは両面テープを貼っていないため共振を起こしやすいです。
HEADは両面テープを貼っていませんが強固なので共振は起こしにくいですです。
ノットの先端がフレームに接していると共振を起こしやすいです。
当店は接しない張り方を追求しております。
しかしもし接していたら、指で押して離してください。
ビーンという共振は出る時は出ます。
振動止めを普段使わない方もご使用頂くべきケースが発生します。
2.5g前後が多い重量バランスの変化を嫌う場合は、0.2gの輪ゴムを結んでも共振は減ります。